青少年における乾汁の副作用 2
「・・・それでもちょっと小さいみたいだね?」
父親の物であるバスローブを羽織ってもふくらはぎの半ばから隠れないリョーマの足を見て不二は笑った。
「ごめん、でもそれがウチにある一番大きいサイズなんだ。」
「・・・どうも。」
「・・・ホントここまで大きくなると見事としか言いようがないね?」
そんな不二の言葉にリョーマは肩をすくめベッドへと腰掛ける。
「で、乾先輩、何て言ってました?」
「え?ああ、彼が言うにはね、確かにあれは即効性を狙って作ったものだけど、そんなに劇的に効くなんて不思議だって。」
「不思議・・・って言ったって。」
リョーマは改めて信じられないほど伸びた自分の四肢を見る。
「で、効能的には成長をつかさどるホルモンを助ける程度のものだから、解毒剤とかそういうのは作ってないって言うんだ。」
「・・・マジ?」
「明日学校休みじゃない?で部活は午後からだから彼、出かけちゃってるみたいで、そういったものを作るとしても明日君を見てそれからって事になるって。」
その不二の言葉にリョーマは眉をしかめる。
「でも大きくなった君を早く見たいって言ってたよ。携帯カメラで写真撮って送れってさ。」
「・・・完全に人事っすね・・・」
全くあの人は・・・とぶつぶつ言うリョーマの横顔を不二は改めて見つめる。面影を留めているものの、幼さを感じさせる丸みが取れ、ぐっと精悍さを増したその顔。よくよく見ないとリョーマ本人であるという事がわからないかもしれないほどに成長してしまっていて。
「・・・何?」
自分の視線に気づいてそう問いかける声も低いテノールに変化している。
「さっきはびっくりしたな、って思って。」
そんな大人びた彼の顔を見つめつつ不二はちょっと笑った。
「ホントに苦しそうだったから、あのままどうかなっちゃうかと思って。」
「・・・どうかなってたら、どうしてた?」
そんな不二の目をまっすぐに見てリョーマは問いかけた。
冷静ではあったけれど、どことなく不安そうに自分を見ているその瞳。そして言葉や何気ない仕草の端々に自分を心配している態度はしっかりと伺えて。
でも、つい欲張ってしまう。普段は聞き出せない彼の気持ちが聞いてみたくて。
「“どうかなってる”ってのは現在進行形だからね?」
でも、そんなリョーマにちょっと目を見開いた後、不二はくすり、笑う。
「これ以上どうかなっちゃったら困るんだけど?」
「・・・」
・・・やはりこの人はそこまでは甘くない。
いつものごとく上手くはぐらかされてしまった事に肩をすくめつつリョーマは改めて自分の視界の高さを意識する。
いつもなら見上げなければいけないその人の顔が自分の目線の下にある。いつもとは逆に不二が自分を見上げてくる事は素直に嬉しく、ちょっとは乾に感謝してもいいかな、と思いつつリョーマは不二を引き寄せる。
・・・この人ってこんなに華奢だったっけ?
流れのままに抱きしめれば、自分の腕にすっぽりと納まってしまった不二にリョーマは目をしばたいた。
どこか頼りなく、そのまま腕からすり抜けていきそうな感覚に思わずその腕に力がこもる。
「・・・苦しいよ・・・」
・・・ほんの少し力を入れただけのつもりが不二には苦しかったらしい、背中に回された手にとんとんと叩かれてリョーマは慌ててその力を抜く。
「・・・ごめん・・・」
謝りつつも不二を放す気はさらさらなく、その腕に閉じ込めたままリョーマはその髪に頬を寄せた。
「・・・オレ、さっき本気でダメだと思ったっす。」
近くなった不二の香りに目を細めつつ、リョーマは呟くように言う。
「で、訳わかんなくなる前に、あんたを抱きしめたいな・・・って思った。」
「・・・え?」
「オレ、やっぱあんたの事好きなんだ、って思った・・・」
「越前・・・」
耳慣れない低い声でそう呟き、再びきゅ・・・っと力をこめて自分を包みこんだリョーマに不二は小さく笑う。
「・・・そういうとこ、変わらないんだね?」
抱き寄せられるまま、いつもよりもたくましさを増したその胸に頬を寄せれば、変わらない彼の匂いと温もりが伝わってきて、不二は目を細める。
「大きくなったら、性格も少しくらい変わるかと思ってたけど・・・」
「・・・悪いすか?」
自分の言葉に拗ねた口調で返すリョーマに不二は小さく首を振る。
「少し、ほっとした。」
「え・・・」
「変わらないままで・・・よかった。」
「先輩・・・」
自分を仰ぎ見て微笑む不二に、リョーマは力の加減も忘れてもう一度強く彼を抱きしめる。
「・・・っ」
・・・そのままキスをしようとして顔を寄せれば、腕の中の身体が強張るのを感じてリョーマはふっと眉を寄せる。
「・・・嫌?」
腕の中で戸惑いの表情を見せる不二にためらいがちにそう聞いてみる。
いつもはやんちゃな子犬を思わせる彼が、よくしつけの行き届いた大型犬のようにおとなしく自分の様子を伺っているのに不二は小さく笑うと、そんなリョーマの頬を両手で優しく包むように触れ、その瞳を覗き込む。
「嫌じゃないよ?だって・・・君だもの。」
その奥にあるいつもと変わらない光を見つけ、ちょっと笑ってゆっくりと目を閉じれば、少しの間をおいてリョーマはそっと優しく自分の唇にその唇を触れてきた。
軽く触れて離し、離しては触れる、ついばむようなキスを繰り返しながらリョーマはゆっくりと自分の髪を梳きつつ、頬や首筋に優しくその手を触れさせてくる。
その熱も、自分に触れる仕草も間違いなく彼のもので、その事に安心したのか不二の身体からすっと緊張が解けていく。
不二の腕が自分の背中に回るのを感じ、ゆっくりと、でも深くその唇を求めればいつものように応えてくれる彼にようやく安心すると、リョーマは小さく笑った・・・
「・・・?」
・・・第二の異変に気づいたのはそれからしばらく経ってからのことだった。
・・・おかしい。
内心リョーマはひそかに焦っていた。
白い肌をすっかり上気させ、出来上がりつつある不二の身体を目の前に、気持ちはもう昂ぶるだけ昂ぶっているのだが、肝心の下半身は、というと・・・
「・・・どうしたの?」
「え?あ、いや・・・」
愛撫の手を止めた自分をうっすらと目を開けて見つめてくる不二にリョーマは慌ててキスをしつつちら、と下半身に視線を流す。
・・・勃たない・・・
最初は気のせいだ、と思っていたのだがここまできて、全くうんともすんとも反応しないそれに、リョーマは先ほどの訳の分からない痛みに倒れた時よりもパニックに陥る。
いつもなら我慢しつつ、宥めるのに苦労しながら事を運ばないといけないはずなのに・・・
ウソだろ?
何で??
どうしてだ???
「?」
そんなリョーマのただならぬ雰囲気に聡く気づいた不二は、その目を開けて、彼の視線の先を追う。
「「あ・・・」」
・・・ややあって二人の唇から小さな声が同時に漏れる。
それを見てしまった者と、見られてしまった者と、お互いの立場とその意味は異なってはいたが、その後にその場を支配した沈黙はかなり気まずいものだった・・・
“ふむ、事態は深刻そうだね?”
「深刻そう、じゃなくて深刻なんだって!」
電話口の乾はいつものように飄々としており、リョーマはますますかっとした。
「早く何とかしてくれないと困るんだけど!」
こんなにカッコ悪いことはそうそうあるものではない。
知らないうちに反応していた、とか、我慢できずに先に・・・とかというのもみっともない話ではあるが、今の状態よりまだマシというものである。
それを事もあろうに不二に見られてしまったことに対する決まり悪さといったら・・・
自然、その決まり悪さから起こる怒りはこの原因を作ったと思われる乾に向く事になって。
“たぶん大きくなった原因は、何らかのパワーがあのドリンクの作用によって集約し、一気に成長ホルモン刺激ホルモンに働きかけたためだと思うんだが・・・”
でも、その煮えたぎるようなリョーマの怒りもなんのその、乾はいたって暢気に話し続ける。
「解説はいいから何とかならないの??」
“さっきも不二に話したけど、これと言った解毒剤はないし、第一そうなった理由が分からないと作るといってもな。”
「それじゃ困るんだって言ってるっしょ!」
いつまでもこんな状態のままでいろと言うのか!乾のその無責任な言葉にリョーマの怒りはますますヒートアップする。
「だいたいアンタが作ったものなんだから責任取ってよね!」
“・・・やけに食い下がるな・・・?”
激しさを増したリョーマの言葉のトーンにようやく乾が反応を示す。
“何かあったのか?”
「・・・う・・・」
その乾に切り返され、リョーマは言葉に詰まった。
“そういえば君、今不二の家にいるんだったな。・・・という事は・・・”
そう言って乾はしばらく何事かを考えていたようだが、何を思いついたのか不意にははは、と笑った。
“成程ね・・・そういう事か。”
「・・・何がそういう事なんすか??」
その乾の笑い声にリョーマは眉を寄せる。
“越前が急に大きくなった原因だよ。”
「は?」
“メカニズムとしてはこうだ。刺激によって発露したアドレナリンが・・・”
「・・・説明する気があるならわかりやすくしてくれません??」
”要するに君が大きくなったのは激しい興奮状態が原因なんじゃないか・・・って事。“
「興奮状態・・・?」
“そう。それによって起こったエネルギーが集約して刺激ホルモンに働きかけ、その結果、一気に体が成長したんじゃないかな?”
そこでいったん言葉を切ると、乾は意味ありげな含み笑いをもらす。
“ま、その興奮状態が何から来たのか・・・なんて野暮は言わない方がいいかな?後、君が本当に焦っている原因ってヤツも。”
「・・・」
ここで下手に受け答えしたら後で何を言われるか分からない。リョーマは口を噤み、見えない乾を電話口で睨みつける。
“でもそうだとしたら、残念だろうけどしばらくはダメだろうな。”
「ダメ・・・って・・・?」
“ありえないほど成長したんだ。もしオレの推察が正しいなら、そのエネルギーはほぼ成長の方で使い切ってしまった事になるからな。当然使えなくなるだろう。”
使えなくなる・・・? その乾の言葉にリョーマは固まった。
「・・・聞くけど、まさかずっとこのまま、って事はないよね?」
“さあ、何とも言えないな。”
そのリョーマの問いに乾はあっさりとそう言い放つ。
“原因はドリンクだと思うけど、何せありえない事が起こったわけだし、それによって力を使い果たしているわけだからな。”
「!」
“ま、何にせよ解決の糸口は見つかったわけだし、できるだけ努力はしてみるよ。じゃ、そういう事で。”
「・・え?あ、ちょっと!」
乾の言葉に呆気に取られていたリョーマは一方的な会話の終了に慌てて声を上げるが、時すでに遅く、そのまま電話は切れてしまっていた。
「・・・にゃろう・・・」
「電話、すんだの?」
乾を問い詰め、思い切りぶつけるつもりだった怒りをうやむやにされ、その上新たな爆弾まで投げつけられた事で倍増した怒りに肩を震わせていると、いつ入ってきたのかバスローブを羽織った不二が心配そうにこちらを見ていた。
「何か分かった?乾、何て言ってた??」
「・・・まぁ・・・」
苛立ちに任せ、乱暴にベッドに腰掛けた自分の隣に座りながら、何気なく、でも心配そうにそう聞いてくる不二を無視することはできず、リョーマはしぶしぶ口を開く。
「その・・・いきなり成長したのは、オレがあんたに欲情したエネルギーが原因らしいっすよ。」
「え?」
「・・・でそれがみんな成長に回っちゃったせいで、その・・・できなくなったらしいっす。」
「そう・・・なの・・・」
これ以上簡潔になりようもない説明とその内容に不二は微妙な顔をしてリョーマを見る。
「・・・まぁ、そうなっちゃったものは仕方ないよ。まさかずっとこのまま、って訳はないと思うし。」
・・・ややあって慰めるがごとくそう言った不二にリョーマは小さくため息をついた。
「・・・ごめん・・・」
「?」
自分の言葉に小首を傾げる不二にリョーマは決まり悪そうな顔をする。
「その・・・収まりつけるの大変だったんじゃない??」
「収まり・・・って?」
「・・・・・」
「あ・・・」
ちらり、と自分の下半身に流れたリョーマの視線に、不二はその言葉の意味を察し、薄く頬を染める。
そんな不二にリョーマはますます決まり悪そうな顔をして。
「・・・仕方ないよ。こういう事態なんだし。」
ややあって隠しても仕方ないと思ったのか、苦笑交じりに照れたように答える不二にリョーマはひどく情けない思いでまたため息をつく
・・・確かに大きくなりたいと思っていたし、その願いが叶った事は嬉しかった。
でもそれと引き換えにこれではあんまりな気がする。
“もしこのままだったらどうしようか・・・?”
柄にもなく不安に取り付かれ、眉を寄せたリョーマの肩にふっと優しい温もりが降りる。
「・・・先輩・・・」
「・・・ごめん・・・」
「え?」
自分の肩に頭を持たせかけた不二から出た思わぬ謝罪の言葉にリョーマは目をしばたく。
「・・・何であんたが謝るの??」
「君があのドリンクを飲んだのって僕が原因、なんでしょ?」
ちらり、とリョーマをななめ見て不二は苦笑すると、ふっとその目を細めた。
「やっぱり・・・まだ早かったのかな?」
「?何が??」
「君と・・・こうなった事。」
そう言って不二はその苦笑を深くする。
「・・・後悔してるの?」
・・・不意に落ちた固いその声と言葉に頭を持ち上げれば、いつになく真剣に自分を見つめるリョーマがいて。
「今の・・・ガキのオレじゃ不満だった?」
「・・・ホントにそう思う?」
「・・・っ」
微笑みかけつつその瞳をじっと見つめ返せば、リョーマは困ったような、拗ねたような顔を作る。
「・・・誤解しないで。君が思っているような意味で僕は言ったんじゃないんだから。」
そんなリョーマにくすり、と笑うと再び彼の肩に頭をもたせ掛け、不二はゆっくりと口を開く。
「僕は、僕のために背伸びをしてくれる君も好きだけど、背伸びしない君・・・そのままの君も同じくらい好きなんだ。」
拗ねたり、笑ったり、甘えたり、自分の前で見せる彼の年相応の表情は光を受けて輝くビー玉のように眩しくて。
「背伸びなんかしなくてもすぐに君は大人になるよ・・・だから・・・」
「だから?」
「そんなに焦らないでほしいんだ・・・」
多分、今しか見られないその光。それが自分のために失われてしまうのはもったいなくて、寂しくて、だから・・・
「・・・先輩・・・」
「・・・あんまり早く大人にならないで・・・」
小さくそう言って子供がするようにぎゅっと自分の肩を掴む不二にリョーマは目を見開いた後、ふっと微笑む。
「・・・オレは早く大人になりたい、あんたに会ってからずっとそう思ってるんすけどね?」
その肩をさらうように抱き寄せて彼を腕の中に包み、その髪に頬を埋め、リョーマは苦笑する。
“でも、たぶんオレがどんなに大きくなってもあんたには敵わないんだろうな。”
追いつきたくて、追い越せない。・・・たぶんこの人の前ではいくつになっても子供の顔をさらけだしてしまうだろう。それは悔しくはあるけれど、でもそれもこの人だから
なんだと思う。
悔しいのも、その悔しさを認められるのも。
「・・・まぁ、あんたの思うような大人にはならないとは思うけど?」
でも、そうは思っていても彼の前では認めたくない。少し寂しげに自分を見上げてくる不二に心揺らぎながらも最大の妥協のつもりでそう口にし、彼の額に口付ける。
“・・・それにしても・・・”
こんな絶好の場面にありながら、未だ音沙汰のない下半身にリョーマはイライラする。
“ホントにこれじゃ蛇の生殺しだよ・・・”
気持ちが先に立っているだけに余計そのイライラは募り、リョーマは足踏みしたい気持ちにかられる。
「・・・やっぱり、ダメ?」
「・・・」
そんなリョーマの様子を悟ってか不二がそう問えば、リョーマはこれ以上はない程不機嫌な顔を作って黙り込んでしまい、不二は苦笑して小首を傾げる。
「・・・じゃあ、君がこのままだったら、僕が君を抱けばいいか?」
「・・・え?」
自分の腕に抱かれながら、さらりとそう言った不二にリョーマは目を見開いた。
「抱く・・・ってあんたがオレを?」
「何?僕が上じゃ嫌なわけ??」
「う・・・」
「僕だって男だから君が欲しくなる事もあるからね。」
思っても見なかった展開に絶句するリョーマにすましてそう言うと、不二はいたずらっぽい目をして彼を見上げる。
「この際だから君も経験してみたらいいかも?僕がどんな感じで君を受け入れているかを・・・ね?」
そう続けて不二はそれこそ花がほころんだようににっこりと笑った・・・
・・・柔らかな唇が優しく自分のそれに重ねられた後、その唇は首筋をすべって耳たぶを挟んだ。
「・・・越前・・・」
そこを甘く噛まれた後で耳元に落ちた声は優しく、甘く、彼に囁きかける自分の声もそうなのか、とリョーマはぼんやりと考える。
彼に愛された身体が優しく疼いている。まるで自分の身体でないような不思議な感覚に頭の芯がぼんやりする。
「・・・いい?」
「・・・っ・・・」
しかし、同意を求める彼のその声にその感覚が遠のき、背中が冷たくなった。
やはりどこかで緊張しているらしい。
その自分の固さが伝わったのか、彼は小さく笑って額に唇を落とすと、そっと自分の手を取る。
“・・・あ・・・”
そのまま指を絡めるように自分の手を握り締めてきた彼にリョーマは軽く目を見開いた。
それは彼が愛おしくてたまらない時、そしてそう思う自分がここにいる、と知らせたいと思う時にする仕草で。
意識してか無意識からなのかはわからないが、この場面・・・自分とつながろうとする時に彼が同じ仕草をするのが不思議で、何だかくすぐったいような気持ちになる。
・・・たぶん、この人も自分と同じ気持ちでいるんだ。
その手を握り返しながらふとそんな事を思い、リョーマは小さく笑った。
自分だから欲しいと思い、求めてくれるんだ。
・・・彼を求めた時、自分でも早すぎる、と思った。
自分の年齢もそうだけれど、知り合って一緒に過ごした時間は本当に短くて。でも、その早急すぎる気持ちをこの人は受け止めてくれた。
“いいよ・・・君だから”
小さい、でもしっかりとした意思を持った声でそう言って自分をまっすぐ見つめてくれた。彼のその瞳を自分は一生忘れないだろう。
でも・・・それは自分も同じだった。
この人でなければあんなにも欲しいと思わなかったし、求めようとも思わなかった
・・・やっぱり自分はこの人が好きだ・・・
そんな事を考えながら彼を見つめているうちに、身体に張り詰めていた緊張が解けていくのがわかり、静かに目を閉じる。
ゆっくり折り重なってくる恋人の温もりと、近くなるその香り。
どうであれ、彼に触れられるのは嫌じゃない。その証拠にこうして抱かれようとしてもきちんと身体は反応しているし・・・
・・・え?
その下半身を包む覚えのある感覚にリョーマはぱっちりと目を見開いた。
・・・あれ・・・?
真っ先に視界に飛び込んできたのは、先ほどまで自分を抱きしめていた恋人の寝顔だった。
・・・夢、か・・・
自分の顔のすぐ先で顔をこちらに向けて、未だ安らかな寝息を立てている彼の額に軽くキスをしておいて、ぼんやりする頭を押さえつつ目をしばたいていたリョーマだったが・・・
“!”
一瞬の間の後、昨日起こった出来事を思い出したリョーマははっとしたようにその上半身を勢いよく起こした。
「・・・何、どうしたの・・・?」
・・・何やら隣でもぞもぞしている気配に眠りを妨げられ、寝ぼけ眼をこすりつつ、起き上がった恋人を見上げた不二だったが、不意にその目を大きくしばたかせた。
「・・・元に戻ってる・・・」
「え?」
「君、元に戻ってるよ!」
驚いたような不二の言葉にリョーマは慌てて自分の手を見れば、それは見慣れた大きさへと戻っていて。
「効き目、切れたみたいだね?」
「・・・そうみたいっす。」
起き上がって、確かめるようにその髪に、頬に手を触れてきた不二に何を思ったかリョーマはにやり、と笑うといきなりその手首を捕まえる。
「・・・あ・・・」
いきなりのリョーマの行動に目をしばたいた不二だったが、シーツの中へと誘導された手が触れたそれに小さく声を上げる。
「・・・あんたに抱かれる夢見てこうなった。」
薄く頬を染める不二にいたずらっぽく笑いながらリョーマが言う。
「だから責任とってくれない?」
「責任・・・って・・・」
聴き慣れたいつもの声でそう言って、実に嬉しそうに自分を組み敷いてくるリョーマに不二は苦笑する。
「・・・できなかったらどうするの?」
「やってみないとわかんないじゃん。」
不二の牽制もなんのその、リョーマはすましてそう言うと、強く不二を抱きしめる。
「・・・昨日から焦らされて、もう、限界・・・」
「越前・・・」
「・・・欲しいよ・・・」
耳元で囁く声。少しかすれ気味のその声にまるで電流が走ったように全身が震える。
目覚めたばかりだというのに、彼のその声に心臓が穏やかでない音を奏で始めているのは多分、自分も彼と同じだから。
「ダメ?」
「・・・好きにしたら?」
そんな自分を悟られたくなくて、素っ気無くそう返したつもりの言葉だったが、隠しようもなく甘い響きがこもってしまい、不二は苦笑する。
「でも、できなかったらもう我慢しないよ??」
「わかってる。」
そう言ってちょっと笑うと不二の額に口付けて。
「ま、そん時は好きなようにして下さい。あんたの下も悪くないかもだし・・・」
「・・・ホントにそう思ってるの??」
そう言って自分に折り重なってくるリョーマに苦笑しつつ、いつもの彼にいつものように抱きしめられる嬉しさにひそかに微笑む不二だった。